1. はじめに
日本語は、同じ内容を記載する場合でも、複数の記載方法があります。具体的には以下のようなものです。
- 「又は」⇔「または」(漢字か平仮名か)
- 「二、三日」⇔「2、3日」(漢数字か算用数字か)
- 「申し立てる」⇔「申立てる」(送り仮名の違い)
- 「,」「.」⇔「、」「。」(カンマ、ピリオドか句読点か)
複数の弁護士で共同して書面を作成する場合、記載方法(表記)を統一させる必要があります。以下では、表記に関する注意事項をご紹介します。
ルール1 事務所の独自ルールに従う
事務所内の複数の弁護士で準備書面を作成することがありますが、最優先すべきは事務所の独自ルールです。
事務所には、大なり小なり独自ルールがあります。
ボスが「行なう」(公文書では「行う」)、「または」(公用文では「又は」)と書くのであれば、イソ弁はそれに従います。違和感を感じるかもしれませんが、最も避けるべきは、一つの書面の中で複数の表記が入り交じる、統一感のない書面ができあがることです。
相手方から個性的な準備書面が提出されることがありますが、変なら変で、スタイルが一貫している方が良いです。ボスの好みに従わなければならないイソ弁には同情しますが、これはイソ弁の宿命です。
ルール2 公用文の書き方に従う
事務所ルールが存在しない場合は、公用文の書き方に準じます。
なぜなら、準備書面を積み重ねた先にあるのは公文書たる判決であり、裁判官が判決で引用しやすいように配慮する必要があるからです。また、弁護士が和解条項の案文を作成することがありますが、和解調書も公文書ですので、公用文のルールを理解していないと、依頼者の前で表現が次々と訂正されていきます。
公用文の書き方は誰も教えてくれませんので、自分で勉強するほかありません。勉強といっても、一度本を読み、何となく頭に入れておけば十分です。あとは、迷ったときにその都度インターネットで検索します。
お勧めの本は、「分かりやすい公用文の書き方 改訂版(増補)」です。公用文についてわかっているつもりでも、意外と発見があります。例えば以下のようなものです。
- 概数は漢字で書く(二、三日 五、六千人)
- 送り仮名が異なる漢字に注意する(明け渡す/明渡し、言い渡す/言渡し、申し立てる/申立て)。
- 接続詞は、又は、及び、・・・以外は平仮名
- 「,.」のルールはほとんど無視されている(「、。」でも構わない。)。
ちなみに、迷った表記をGoogleで検索する場合は、「候補1 候補2 公用文」(例:「預り金 預かり金 公用文」)等と入力すると良いです。
以前は、ATOKの公用文辞書を利用することで、簡単に公用文を入力することができましたが、10年以上前に販売中止となりました。それなりのニーズがあるので、是非とも再販売して欲しいものです。
ルール3 書面に応じて臨機応変に
私は、普段は公用文を用いるように心がけていますが、内容証明郵便で警告文を出す際に、漢語を使った硬い表現を使うことがありますし、理解力が落ちた高齢の依頼者に連絡する際に、簡単な単語と平仮名を使った書面を作ったりします。表記に関する絶対的なルールがあるわけではないので、最後は自分の考えと好みで決めれば良いと思います。
2. 終わりに
私は、他の事務所の弁護士と共同で、数十ページの書面を作成することがあります。多くの場合、若手の弁護士が書面の体裁を整え、表記を統一させるのですが、独特な表記をする先生がいると、いろいろな意味で訂正に苦労するようです。
表記を気にされない方も多いと思いますが、複数の弁護士で共同して書面を作成する場合、表記を意識しておいた方が良いと思います。